明日よりまた『旅』に出る。
その為の準備を夕方にかけて行っていた。
隼の足はこの一週間で完治した模様、テキパキと働いてくれた。
「明日から行く社の中には修理も頼まれている所もあるので、木材や工具も持っていく必要があるからな。」
隼に倉庫から鋸や鉋を持って来させるとそれらを研いだ。もう数年使っている年季の入った愛用の工具を見て、「職人さんみたいですね。」と感心している。
自分の大切にしているものを褒められるとなんとも言えない嬉しさが込み上げてくるものだ。
砥石と語らう私を見て、嫉妬した様に隼が自分もしたいと懇願してきた。
その為、母屋から鋏を持ち出すと隼に渡した。
慣れた手つきで鋏を研ぐと「これでどうですか?」と鋏を差し出した。
抜群の切れ味に驚くと「自分の包丁は自分で研ぐのが料理人の常識だったので、1年間毎日していましたから。」と自信満々に答えた。
これは!と思い家中の包丁や鋏を持って来て隼に研がせた。
どれも切れ味が素晴らしい事に驚いた。
鉈や鎌などなんでも綺麗に研いでしまう隼を褒めちぎると照れくさそうにしては研ぎ続けた。
吉川さんに電話すると、軽トラに家中の刃物を積んで来るように伝えると、言われるがままありとあらゆる刃物を積んできた。
農家には大小様々な刃物が山のようにある。
「隼くんにこんな才能があったなんて。でももう遅いし全部なんてしなくて良いから。」
「いえ、吉川さんにはこの一週間、いろんなことを経験させていただきましたし、こんな立派な靴までいただいたのに、何もお返しできないと思って悩んでいた位なので、これくらいしかできませんが、恩返しさせて下さい。」
手を錆粉まみれにしながら背中で語る様はまさに職人の様であった。