Page 3478 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼最後の夜31 トキ 07/3/4(日) 11:36 ┣最後の夜32 トキ 07/3/5(月) 21:31 ┗最後の夜33 トキ 07/3/5(月) 21:32 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 最後の夜31 ■名前 : トキ ■日付 : 07/3/4(日) 11:36 ■Web : http://bl-lastnight.seesaa.net/ -------------------------------------------------------------------------
| 検索より「最後の夜」で過去の話が見られます!! ブログにて新たに手直しを加えて投稿中です。 新たな話もあるかも・・・ですm(__)m 夏休みも半分を過ぎ、9月を迎えた。 そして思えば大学生活も半分を過ぎて3年目の夏休みだった。 思い出の公園の木々が少しずつ赤や黄に色づき始めたころ、僕らはベンチに腰掛け、まだ暑さを感じずにはいられない風を肌に感じながらうつらうつらとただ時間が経つのを忘れていた。何気ない時間の経過。あの実家での出来事があってから、僕らは互いに「愛してる」とか「好き」をあまり言わなくなっていった。今までならそれが不安で仕方なかったのに、今は違う。こうして風を感じて意味なくすごす時間があるように、あの日を境に僕らの絆は確かに強くなり、何もない日々が言葉に表せないほどに幸せだった。 くかーっ・・・。 彼の頭が僕の肩に寄りかかる。彼はいつの間にかこの風に眠りについていた。 大介・・・。僕はつぶやいてニヤついた。 公園には8月と違って僕らよりも早く学校を再開した子供がいなくなり、昼間でも人気がまばらで少しだけ心が開放的になった。そして人目を気にせず僕も彼の寄りかかる頭に寄りかかった。ゲイであることに誇りを持てず葛藤を繰り返していた彼と出逢ったころから、僕らはずいぶんと胸を張れるようになったんだ、と嬉しく思った。 そしてゆっくりと眼を閉じる。 大介!!優矢!! 聞きなれた声が聞こえる。牧だ。 牧は、白いロードバイクに乗って僕らの前に現れた。リュックを背負い、自転車のパイプのホルダーにスポーツドリンクをつけて、Tシャツが汗ばんでいた。 なにこいつ、こんなところで気持ちよさそうに寝てんの? 牧はそういいながら自転車を片方の手で押さえながら彼を何度か軽く蹴った。 おーい!起きなさぁい!!ふざけるように言う牧。 ん、んん・・・。ま、牧??彼が目覚めた。 なに、走ってたの?眼をこすりながら彼が言う。 走ってたの?じゃないよ!ほら、どうせ最近走ってないんだろ?意気揚々と牧が言う。 そういえば・・・。僕はつぶやく。 そういえば僕なんてロードバイクを買ってから、実家で彼と走った事を含めて数えるほどしか乗ってない。彼はいまだに眠そうな顔で牧を見上げていた。 9月にはいって少し涼しくなってきたし、どうだい?今から日が暮れるまで郊外の方まで行ってみないか?楽しそうな牧。 おうそう言えば夏の頭に優矢の実家を走ったっきりかぁ・・・。やっと頭が冴えたように彼が言う。 そうだね!いいじゃん!行こうよ!!僕は彼に笑いかけた。 よし!行こう行こう!!彼は楽しそうに笑い、立ち上がった。 んんー!!いい風だぁ!!伸びをする彼。 馬鹿だなぁお前・・・。牧は呆れている様に言った。 僕らは1時間後にまたここに集まる約束をして、僕と彼はそれぞれの家へ、牧はその辺を少し走ってくる、なんて言いながら公園を後にした。 |
| 1時間後。 やっぱり早かったかな?僕は余裕を見て10分前くらいに公園に着いた。 まだ二人とも着いてないかな?僕は周りを見回した。 公園を入って少し歩いたところにある水道にもたれかかった白い自転車。牧がその横で顔を洗っていた。そして上着を脱いでタオルで体を拭く、引き締まった細く適度に筋肉がついた体だった。 少しドキッとしていた自分に気づき、なんだか恥ずかしくなった。 牧!!僕は牧に駆け寄った。 おう!優矢!はやいな。 牧のしなやかな体が近づいて僕は変に緊張して顔が赤くなったのが分かった。 なんだよやめてくれよ、とそんな僕を見ながら牧もなぜかテレながら服を着た。 牧は「いいひと」という言葉が本当に似合う人だ。笑顔がさわやかで、誰に対してもいつも親切で優しい。彼と清水の1件のときもすぐさま中立に立ち、丸く治まるように僕らを導いた。 同じエスカレーターで高校から一緒だった彼女とは、もう5年も付き合っている。きっと男からももてるんだろう、なんて牧の笑顔を見るたびに思ってしまう。 大介遅いな。牧が言った。 ま、あいついつも遅刻気味だし、まだ集合時間前といえばそうだし、あそこのベンチにでも座ってようぜ!さわやかに笑いながら牧がベンチを指差した。 そうだね、と僕も笑い返し、ベンチに向かった。 大介とはどうだい??ベンチに腰掛け、一拍置いたと思うと牧が僕に言った。 特になにもないし、今はそれが幸せだよ、僕は迷わず言った。 そうか、ならいいんだけど・・・。 大介なにか言ってたの? いや、別に・・・。 僕は牧と会うのは久しぶりだが、彼は僕の実家から帰った後も何度か遊んでいるようで、そこで何か僕の愚痴をこぼしているんじゃないかと思って不安になった。僕の前ではなにも変わらないいつもの彼なのに、本当にただ牧が僕に、聞いてみた、だけであることを祈った。 ごめんごめん!待った??!!彼がやってきた。 なんでもないんだ!忘れてくれ!牧は僕にささやくように言って立ち上がった。 さ、行こうぜ!!彼は早くから来ていた僕らをせかすように大きく手招いた。 よし!!僕は牧を信じて吹っ切るように立ち上がった。 |
| 初秋の風が吹く。 牧が先導し、三人一列になって走る。 さっき今での暑さが嘘のように、体に浴びる風が気持ちよくて僕は笑顔にならずにいられなかった。信号の多い市街地を30分ほど走ったら徐々に道並みも変わり、もう10分くらい走ったらいつの間にかあたりは田園風景へと変わっていた。僕が下宿しているところは実家のほうと比べれば天と地ほど都会と田舎だと思っていたのに、40分そこら走るだけでこんなにも景観が変わるとは思っても見なかった。 すごい!こんなところもあるんだね!信号に停まり三人が横に並んだとき僕はワクワクを抑えきれずに二人に言った。 そう言えばお前はまだ近所に行くのに使うのがほとんどだもんな!彼が言った。 そうなんだ?!俺たち結構こうやって暇なときに走ってるんだぜ?!牧が言った。 なら誘ってくれればいいのに・・・、僕は少し不満に思った。 ロードバイクで走っている間はほとんど会話がない。それぞれに風を感じ、景観に酔いしれながらただ同じ時間をすごす。二人はなにを考えていたのかもちろん分からないが、僕は前を走る二人の背中を見るとなんだか幸せになれた。僕のことを受け入れてくれる大切な人と、大切な仲間と、こんな時間を過ごせることが幸せだった。 よし!!来年は絶対日本一週するからな!!お前らちゃんと着いて来いよ!!彼は大声を上げながら自転車を走らせ、先頭に出た。 おうよ大介!!牧は笑顔でそれに応えた。 僕は大声を出すのに慣れていない。二人のこのテンションにどう応えればいいのか迷った。 どうした!優矢??!!彼が大声で僕に問いかけた。 僕が戸惑っていると牧が僕のほうを向いて、左手で「がんばれ」というように拳を振った。 ・・・ わあーー!!僕は叫んだ。 そして必死で自転車を漕ぎ、先頭に出た。 俺は!俺は一生大介に着いていくからな!!僕は大声で空に叫んだ。 なんだよ、半分プロポーズじゃないか?!牧は笑った。 僕はなんだか恥ずかしくなって顔が真っ赤になっていた。そしてそれがばれるのが嫌で、頑張ってスピードを落とさないようにして先頭をキープした。 なに顔赤くしてんだよ!いつの間にか彼が僕の横に来て、僕の顔を見て笑った。 うるさい!僕は照れ笑いした。 それから2時間くらい時に休憩しながら田園風景を走りぬけ、帰り道を走るころにはもう夕暮れが差していた。もう秋なんだ、そう思わせるように夕暮れの風は少し涼しくて、汗をかきほてった体をちょうどよく冷やしてくれるようだった。 一番星が見えた。 僕は祈った。こんな幸せがずっと続くようにと。しかしそうもいかないことも本当は分かっていた、父の命のことを思うたびに胸が締め付けられるように痛くなる。彼もきっとそんな僕らの未来を、そして僕のことをまるで自分のことのように考えてくれているに違いない。 未来が見えない不安を、今を精一杯送って拭う僕らだから、その未来に直面したときの痛みがどんなものか、その大きさも薄々分かっていた。 だからきっと僕は僕で、彼は彼で、すこしずつ未来と向き合い始めている。 秋の深まりと、木々の紅葉と、それと同じように僕らの中で何かが変わり、そして終わろうとしている。 |