図書室でのあの劇的な昼休みが終わり、私はしばらく「嫌われてしまったのではないか」「怒らせてしまったのではないか」という不安を、心のどこかに抱えたまま過ごしていた。授業中も、いつもの休み時間も、こうじの様子を伺うようにして、どこかぎこちない距離感になっていた。
しかし、こうじの心の中は、私の予想とは全く違う方向へ動いていた。
学校からの帰り道だったか、あるいは誰もいない放課後の廊下だったか。
ふと2人きりになった瞬間に、こうじがいつも通りの、けれどどこか少し決意を秘めたようなトーンで、ぽつりと言ってきた。
「今度の日曜日、俺、お前の家に遊びに行っていい?」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はドキンと大きく跳ね上がった。
全校生徒100人に満たない田舎の日常の中で、「友達の家に遊びに行く」という口実は、親にも周囲にも怪しまれない最高のアリバイだ。
けれど、あの図書室で、ブリーフの上からお互いの硬い熱を確かめ合い、前開きの手を拒まれた数日後のこのタイミング。それがただの「遊び」であるはずがなかった。
図書室ではチャイムが鳴り、誰かが来るかもしれないスリルの中で強制終了してしまった。こうじが掴んできたあの手の強さは拒絶ではなく、「ここじゃない」という彼なりの意思表示だったのだと、その時初めて気がついた。
私の親が出かける日なのか、誰もいなくなる時間があるのか、こうじはそれを狙っているに違いない。
「……おう、いいぞ。来いよ」
私は平然を装ってそう答えたけれど、声がわずかに震えてしまうのを止められなかった。
こうじは「じゃあ、日曜日な」とだけ言って、小さく悪戯っぽく笑ったように見えた。