公民館の雨の日から、数日が経った。
私たちは相変わらず、周りからはいつも通りの「幼馴染の友人」に見えるように、教室でも部活でも普通に振る舞っていた。あの部屋でのことは、まるでお互いの記憶から消し去ったかのように、口に出すことはなかった。
しかし、やはり一度引かれてしまった一線は、消えてはいなかった。
ある日の短い時限間の休憩時間、私は一人でトイレに入った。
古い木造校舎の、少し薄暗い男子トイレだ。その時はたまたま他に誰もいなくて、ずらりと8つ並んだ隣との仕切りの無い立小便用の便器がすべて空いていた。私はそのうちの一つに向かい、用を足し始めた。
静かな空間に、小便の音だけが響く。
すると、入り口の戸が開き、誰かが入ってくる気配がした。足音で、すぐにこうじだと分かった。
8つも便器が空いているのだから、普通なら2、3歩は離れた場所に立つはずだった。しかし、こうじの足音はまっすぐ私の方へと近づいてきて、あろうことか、私のすぐ横の便器の前にピタリと止まった。
肩が触れ合いそうなほどの距離だった。
こうじは何食わぬ顔で前を向き、学生ズボンのファスナーを下ろして小便を始めた。
私は前を向いたまま動けなくなった。横目で見る勇気はなかったけれど、すぐ隣にいるこうじの気配が、痛いほど全身に伝わってくる。
誰もいないトイレの中で、わざわざ隣に並んできた意味。それは、あの雨の日の公民館の続きを、彼がまだ意識しているという何よりのサインだった。
沈黙のなか、2人の小便の音だけが響いている。
公民館では恥ずかしくなって私の手を止めたはずのこうじが、今度は自分から、この誰もいない空間を利用して距離を詰めてきたのだ。
用を足しながら、私の心臓はまた、あの図書室の時と同じように激しく脈打ち始めていた。
私は前を向いたまま、隣のこうじの気配に神経を集中させていた。すると、横にいるこうじの気配が、わずかにこちら側に傾くのが分かった。
不意に、こうじが横から私の股間をじっと覗き込んできた。
本当に一瞬の、けれどあからさまな視線だった。
私は、頭の芯がカッと熱くなるのが分かった。
あの雨の日の公民館では、未熟なそれが硬くなりかけただけで真っ赤になって私の手を止めたこうじが、今は誰もいないトイレという空間で、自らその境界線を越えようと私のものを見つめている。
視線を感じて、私の身体は用を足している最中にもかかわらず、急激に意識し始めていくのが分かった。心臓の音が耳の奥でうるさいほどに鳴り響く。
こうじは覗き込んだまま、何も言わない。ただ、その視線の熱さだけで、「あの日の続き」をどれだけ意識しているかが、言葉がなくても痛いほど伝わってきた。短い休み時間の終わりが近づくなか、誰も来ない男子トイレの片隅で、私たちの間には図書室のとき以上の、ヒリヒリとした生々しい空気が張り詰めていた。