「……さっきの続き、この後しよう」
夕暮れ迫る校舎内で2人きりになれる場所を探して彷徨っていると、運悪く担任に出くわした。
『早く帰りなさい』その言葉が私たちを現実の世界に引き戻した。あいにく雨が降り出した事も手伝ってその日はそれ以上の進展が無く下校した。
翌日も、雨が続いていた。
昨日の事は何も無かったように時間が過ぎ、放課後の部活が始まる。
泥だらけになるグラウンドは使えず、顧問の先生も会議で不在。そのため、私たちは学校の近くにある小さな公民館に移動し、ほぼ遊びのような自主練習をすることになった。
全員が幼馴染のような田舎の環境だ。公民館の構造なんて、子供の頃から隅々まで知り尽くしている。
外はしとしとと雨が降り続き、他の部員たちがロビーや広い部屋で騒がしくボールを蹴り合っている中、私とこうじは自然と、そこから少し離れた奥の部屋へと向かっていた。普段は物置のようになっていて、まず誰も入ってこない、薄暗い部屋だ。
扉を静かに閉めると、外の部員たちの賑やかな声が、急に遠くの出来事のように引いていった。
聞こえるのは、窓を叩く規則正しい雨の音だけだった。
こうじは部屋の隅にあったパイプ椅子をいくつか引っ張り出すと、それらを横に並べて腰掛けた。
部屋の中は外の明るさが届かず、お互いの表情が陰になってよく見えない。けれど、その沈黙がかえって、昨日の昼間の図書室での緊張感を一気に引き戻した。
並んだ椅子に私が腰を下ろすと、こうじがこちらを向いた。
雨の音に消されそうなほど小さな声で、けれどはっきりと、こうじは言った。
「……続き、お願い」
昨日、図書室で私の手を求めたあの熱が、そのまま目の前にあった。
私は言葉を返す代わりに、静かに手を伸ばした。雨の日の冷えた公民館の空気の中で、こうじの身体から立ち上る熱と、自分の指先が再び触れ合う。並べた椅子の上で、二人の距離は、もういつもの「幼馴染の友達」の距離ではなかった。