Chapter 1 久しぶりの帰省
俺は高校3年生の夏休み、部活の厳しい合宿が終わった翌日に、久しぶりに実家のある田舎へ帰省した。
在来線に揺られること約2時間半。車窓から見える景色が徐々にコンクリートから緑の田園風景に変わっていくのを見ていると、自然と肩の力が抜けていくのがわかった。都会での一人暮らしに慣れていたけど、やっぱりこの風景を見ると「帰ってきたな」と実感する。
祖父母の家に着いたのは夕方5時頃だった。駅から徒歩15分の距離にある古い日本家屋の前で、祖母がエプロン姿で待っていてくれた。
「お帰り! 拓也! よく帰ってきたねえ。疲れてないかい?」
祖母に抱きつかれるように迎えられ、祖父も奥からゆっくり出てきて俺の肩を叩いた。
「大きくなったな。部活でずいぶん鍛えたみたいじゃないか。胸板が厚くなったぞ」
家の中に入ると、すでに親戚が大勢集まっていた。叔父夫婦、叔母、従兄弟の小学生の双子、遠い親戚のおじさん夫婦まで来ていて、まるで俺の帰省を祝うような集まりになっていた。
夕食は盛大だった。
祖母が作った山菜の天ぷら、叔父が朝獲ってきた川魚の煮物、夏野菜たっぷりの味噌汁、地元で取れた米の新米ご飯。ビールや地酒も出てきて、大人たちはすぐに宴会モードに入った。
俺は未成年なので麦茶を飲みながら、親戚たちから質問攻めに遭った。
「高3になったんだって? バスケはまだエースか?」
「彼女はできたのか? 東京の女の子は積極的だろう?」
「今年の大会は優勝狙えるのか?」
俺は苦笑いしながら適当に答えていたけど、時々、叔父や親戚のおじさんたちが意味深な視線を交わしていることに気づいた。
「今年は……拓也も高3か。今年は特別だな」
「そうだな。ようやく順番が回ってきたか」
その時はただの酒の上の冗談だと思って流していた。
翌日からの数日は、本当にのんびりとした田舎らしい日々だった。
朝は祖父と一緒に畑へ行き、トマトやキュウリを収穫した。昼間は従兄弟の双子を連れて近くの川へ遊びに行き、冷たい水の中で泳いだり、魚を追いかけたりした。夕方になると近所の子供たちが俺の噂を聞きつけて集まってきて、「先輩、バスケ教えてください!」とせがまれるのが日課になった。
特に印象深かったのは、帰省して4日目の夜。
近所の中学生や高校生の後輩たちが10人以上集まってきて、「先輩、久しぶりに本気でやりましょう!」と誘ってきた。俺は少し疲れていたけど、懐かしい顔ぶれに嬉しくなって、部屋に置いてあったバスケの練習着に着替えた。
白いTシャツに黒の短パン。合宿で使い込んだやつなので、少し小さめで体にぴったり張り付く。
近所の空き地にある錆びたバスケットゴールの下で、街灯を頼りに俺たちは本気で動き回った。
ドリブル、レイアップ、3ポイント、1on1。
後輩たちが本気で来るので、俺も高3の意地を見せるように全力で応えた。すぐにTシャツはびしょ濡れになり、背中や胸の部分が体に張り付いて筋肉のラインが浮き出るようになった。短パンも汗を吸って重くなり、太ももに汗が滴り落ちるのが自分でもわかった。
汗の臭いがかなり強くなっていた。
首筋、脇の下、股間……練習着全体が俺の汗で湿り、男臭い匂いを放っているのが自分でもはっきりわかった。でも後輩たちは楽しそうで、俺もつい夢中になって1時間半以上やり続けた。
練習が終わった後、後輩の一人が言った。
「先輩、今日集会所で神楽祭りの準備してるみたいですよ。顔出してみたらどうですか? みんな待ってると思いますよ」
俺はタオルで汗を拭きながら
「ああ、そうなんだ。じゃあシャワー浴びてから寄ってみるよ」
と言ったが、後輩たちが「今すぐでいいですよ! 汗臭いくらいが男らしいって!」と笑うので、そのまま汗だくの練習着で自転車に乗った。
夜の田舎道をゆっくり走りながら、俺は少しだけ不思議に思っていた。
今年の祭りは、なんだかいつもより気合が入っているような……そんな予感がした。
集会所に着いたのは夜9時前。
そこで俺は、はっきりと気づいた。
いつもと、明らかに様子が違うということに。