第2章:絞めの快楽、二重の支配
柔道部の練習後、再び集まった三人。場所は変わらず、道場の柔術マット上。今夜の空気は、どこか最初よりも濃密だった。
一度「落ちる」感覚を知ってしまった涼太の身体には、すでに条件反射のような期待と興奮が滲んでいる。畳の冷たさすら、快楽の入口に思える。
「今日は、ちょっと凝ったことやってみようか」
蓮が手を叩く。圭吾も涼太の背中に手を当てながら、穏やかな声で続けた。
「俺と蓮、二人がかりでお前を締める。もちろん、ルールと合図は変わらない。でも――同時に、ふたつの方向から責められる感覚、味わってみたくないか?」
涼太は、喉を鳴らしながらうなずいた。
「お願いします……」
ポジショニング:マウント → トライアングルからのリアネイキッドチョーク
まず、涼太はマットの上に仰向けに寝かされた。
その胸の上に、ゆっくりと圭吾がマウントポジションを取る。両膝で涼太の腰を挟み込み、しっかりと乗る。
「うっ……けっこう重い……」
「まだまだこれからだ」
圭吾は柔らかく笑ったまま、道着の裾を掴み、ゆっくりと涼太の両手首を頭上に固定する。そのまま彼の胸を圧迫するように重心をかけると、涼太の呼吸がほんの少し、浅くなる。
「このまま、蓮。いけるか?」
「もちろん」
蓮は、涼太の頭側に移動していた。そして、そのまま彼の首に、三角形を描くように両脚を巻きつけてくる。
「えっ……あっ、あれ……これ、三角絞め……っ?」
「正解。三角絞め(トライアングルチョーク)っていう、柔術の代表的な絞め技だよ。しかも、俺の脚で」
蓮の右足が涼太の首に沿って通され、左膝の裏に差し込まれる。両腕のうち片方を巻き込んで、蓮がぎゅっと絞め始めると――
「くっ……!あ、あぁ……っ」
頸動脈が、両脚で完全に塞がれる。しかも、腕が巻き込まれていることで逃げ場はなく、重力で頭は固定されている。
そこに――
「まだ締まるぞ」
圭吾の手が、涼太の顎の下にそっと添えられた。そして、そのまま後ろから、リアネイキッドチョーク(裸絞め)が追加される。
「……う、そ、両方から……くる……の……っ」
圭吾の右腕が、蓮の脚の下を通して、涼太の首の反対側から回されていく。喉を避けるように、完璧に頸動脈を狙って。
二人の力が交差し、涼太の首をサンドイッチのように包み込んだ。
「……あっ、は、ん……んっ……!!」
視界が一気に暗転する。
耳がキーンと鳴り、頭の奥が浮くような感覚。絞められているはずなのに、どこか甘くて、心地よい。
意識が……どこかへ……。
だが、蓮と圭吾の連携は完璧だった。
「今」
蓮の声で、二人は同時に圧を緩めた。
涼太の身体がぐったりと、だらしなくマットに沈み込む。目を閉じたまま、呼吸だけが静かに戻っていく。
「……落ちたな」
圭吾がそっと、涼太の前髪をかきあげる。蓮も脚を外しながら、笑みを浮かべる。
「かなりギリギリまでいったね。でも、ちゃんとコントロールできてた。やっぱり柔術の技って、プレイにも応用できる。綺麗だったよ」
数秒後――
「……ぅ、あれ……? 俺……今……」
涼太がぼんやりと目を開ける。
圭吾が手を握る。「戻ってこい、涼太」
「……うん、ただいま、です……」
頬がほんのりと紅潮していた。落ちた直後の、恍惚とした表情。羞恥と高揚が交じった、無垢な反応。
蓮がニヤリと笑う。「まだまだ、これからだよ?」
第2章(後半):絞められる身体、馴染んでいく首
「大丈夫か?」
圭吾が水のボトルを差し出すと、涼太は首を軽く横に振った。
「ちょっと……ふわふわしてるけど、気持ち悪くはない……」
そう言って、彼は自分の首に手を当てた。ほんのり熱を持ち、皮膚の奥がじんじんと疼いている。その奥で、鼓動がかすかに跳ねていた。
「これが……締められた後の感覚、なんだ……」
「うん。それが“落ちきる”一歩手前だ。よく耐えた」
圭吾がそっと涼太の背中をさすった。横では蓮が、すでに次の構えに入っている。
「じゃあ、次。『フロントチョーク』いってみようか」
「フロント……?」
「正面から相手の首を挟み込む技だよ。柔術でもレスリングでも使われる。小手先じゃ効かないけど、しっかり体重と角度を使えば、すぐに意識飛ぶくらい強力」
蓮が涼太の前に座る。そして――
「仰向けになって、俺の脚の間に頭突っ込んで」
言われるがままにポジションをとると、蓮は素早く腕を差し入れた。片腕を涼太の首に巻きつけ、もう片方の手で自分の手首を掴むようにして固定。
「ここから一気に締めると――」
ぐぐっ……
「っ……!!」
涼太の身体がびくん、と反応する。蓮の前腕が喉の上ではなく、頸動脈のラインにしっかりと当たっている。
「苦しいのは、息ができないんじゃなくて、脳に血が回らないから。これ、ほんの数秒で落ちるよ」
蓮が言いながら、身体を倒すようにして重心を前方に預ける。腕だけで締めているのではない。肩、胸、腰――全体の体重で、涼太の首をねじ伏せていくように圧をかけていく。
「ん、ぐ……あ、かはっ……! く、うっ……」
口を開けても声が出ない。空気が吸えているようで、頭がぼんやりと白くなる。まるで濁った水の中に沈んでいくような、粘っこい苦しさ。
「蓮、ちょっと待て」
圭吾が手を挙げる。
蓮はすぐに締めを解いた。フロントチョークの腕を抜くと、涼太の顔がはっきりと見える。赤くなった頬、涙のにじんだ目。けれど――彼の表情には、怯えよりも快感がにじんでいた。
「……落ちそうだった。マジで。でも……嫌じゃなかった」
「だろ?」
蓮は微笑む。「あれが“喉の先で落ちる”って感覚」
テクニカル補足:フロントチョーク(ギロチン系)
技術的には「片手で頸動脈を塞ぎ、体重で圧を加える」。
絞まっている間、息はできるが、脳に酸素が行かないため意識が急速に薄れていく。
腕だけに頼らず、相手の背中を引き寄せるようにして背骨ごと固定すると、逃げられにくくなる。
絞まり方が速いため、加減を間違えると数秒で失神する。
涼太の胸が、上下に波打っていた。けれど不思議なことに、その苦しさを、彼の身体はどこか「悦び」として受け入れ始めていた。
「……もう一回だけ……やってもいいですか」
圭吾と蓮が顔を見合わせる。そして、圭吾が軽く頷いた。
「じゃあ、俺からいこう。俺の“アナコンダチョーク”、試してみるか」
「アナコンダ……?」
「名前の通り、絡みついて締める技。さっきのより、もっと深くて重い」
涼太の目に、ほのかな期待と不安が交差した。