>「高木ヒロトさん、本人で間違いないですか?」
「本人です。」
「私は君がバイトしていた〇〇会社の斎藤です。分かるかね?」
「ハイ覚えてます、お世話になりました。」
齋藤さんは俺がバイトした時に、最初にコンビを組んだ人が辞めてしまい、
宮本さんとのコンビを割り振ってくれた人だ。
でもなんで斎藤さんが電話してきたんだろう?俺は怪訝に思った。
「ドライバーの宮本コウヘイ君、覚えてますか?」
「ハイ。良くしてもらいました。」
「良かった。実は宮本くんの事で連絡させてもらいました。」
「宮本さん、どうかしたんですか?」
「実は事故で亡くられたんですよ。」
「えっ、嘘でしょ?このまえ電話があったばっかりですよ。」
「本当ですよ、暴走してきた大型車に。現場検証の結果は宮本君に非はなかった。」
「連絡することは迷ったんですが、2年間も同じコンビで仕事するのは弊社では珍しく
他のドライバーから強く提案もあったので連絡しました。
また、これは極めて私的な連絡であることを付けくわいておきます。」
「葬儀に参加したんだけど、優秀な人材を失って残念だよ。」
俺は茫然自失で電話を切った。
宮本さんの「死」を受け入れるのが怖かった。
「会える日を楽しみにしてる、」って、いつですか?
あの時のキスが最期のキスですか?
俺の中にそんな想い出だけを残して逝ってしまった。
宮本さん、、、ちょっと狡くないっすか? 俺は寂しい。
一緒に観た花火も懐かしい思い出。
季節外れの海でじゃれ合ったことも懐かしい思い出。
一度意見の違いで言い合ったことも懐かしい思い出。
旅行に行ったとき、二つの布団をくっつけて寝たことも新鮮な思い出。
一緒に過ごした時間は全てが大事な思い出。
付き合えば付き合うほど離れたくない気持ちが強くなる。
あんなに魅力的な人にもう会えないかもしれない。
心から好きになったひと。
カッコ良くて、思いやりのあるひと。
でも一つだけ嫌いなことがあった。
時々、俺を子ども扱いする。
真剣な顔つきで運転している顔が好きです。
カラオケで陽気に歌ってる顔も好きです。
無防備な顔でベッド眠ってるショットも。
誰もいない野外の露天風呂で2人だけで撮った一枚も。
今でも、スマホの連絡先は消せないままです。
一緒に撮った写真も、優しい笑顔も、おどけた顔も。
思い出は全てスマホの中に色鮮やかに残ったまま。
子ども扱いされてもいい。
会いたい。