すると、青木君の身体が大きく震え始めた。彼の喉から、抑えきれないような喘ぎ声が連続して漏れ出す。そして僕の頭を掴みながら「っ……あぁ……っ! い、いく……っ!」次の瞬間、口の中に「ビャーッ」と熱い液体が広がる。青木君の精液が、僕の口内に勢いよく噴き出したのだ。彼は僕の頭を掴む手に力を込め、全身の力が抜けていく。
僕は口から彼のペニスを離し、青木君を見上げた。彼はぐったりと、荒い息を繰り返している。僕もまた、快感と、そしてどこか満たされない虚無感の中にいた。僕が彼の腹の上で口を開けると、口の中に溜まっていた彼の精液がたらあっと流れ落ちた。
その後、僕はもっと欲望の深みに堕ちていく。まだ童貞の僕は、掘ってみたいという衝動に駆られた。「この際どうにでもなれ」とばかりに。青木君なら試したいと言うだろう。思い切って「お尻に入れてもいい?」と聞くと、彼の返事は信じられないものだった。
「それは無理、俺はエイズになりたくない」
なんという偏見だ。ゴムを使うのは当たり前だし、そんなことを言われて深く傷ついた。断ってもいいけれど、そんな言い方はあるだろうか。そこで僕も一気に我に返る。相手はノンケだ、結局は性の捌け口として利用されただけだ。何を本気になっていたんだ。結局ケンさんだってそうなんだろう。僕らゲイの苦悩なんか分かってはいない。
青木君は何か間違ったこと言った?とでも言うようにキョトンとしている。彼はシャワーを浴びに行き、帰ってくると着替えた。そしてベッドに2万円を落とすようにして置くと、そのまま足早に帰っていった。僕にはただ、虚しさだけが残された。
僕はまだ裸でベッドに座り込む。片付けしないとと思い立ちあがろうとしたその時、部屋の扉が突然開いた。現れたのはなんと店長だった。彼は怖い顔をしながら言った。
「お前さっき何やってた?これ初めてじゃないだろ!お客さんの間でも変な噂が立ってるらしいぞ!規約違反ですぐ辞めてもらう!」
その日、僕は突然解雇されてしまったのだ。この日は僕にとって、まさに最悪の日となった。
店を追い出された僕は、ふらふらと足元もおぼつかないまま家路に着くはずだった。けれど、気づけば足は勝手にケンさんのマンションへと向かっていた。
冷たい石畳の上に座り込み、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。体の芯まで冷え切った、日付が変わる頃、マンションの前に一台のタクシーが止まった。
まさか、と顔を上げると、そこに降り立ったのは紛れもないケンさんだった。彼は僕が石の上に座り込んでいるのを見て、驚いたように声を上げた。「あれ? ユウセイ? こんなところで何してるの?」
彼の優しい声が耳に届いた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。嗚咽が止まらない僕を、ケンさんは躊躇なく抱き上げてくれた。その温かい腕の中で、僕は子どもみたいに泣きじゃくった。彼は何も言わず、そのまま僕を抱きかかえながら部屋へと連れて行ってくれた。
部屋の中へ通され、ようやく落ち着きを取り戻した僕は、ずっと心にあった疑問をぶつけた。
「ケンさん、なんで1ヶ月も連絡してくれなかったの?」
ケンさんは、僕の頭を優しく撫でながら、少し困ったような、でも真剣な顔で話し始めた。
「ごめん、ユウセイ。本当にごめん。急な話で、俺もどうしていいか分からなかったんだ。実は、アメリカへ転勤の話は前からあったんだけど、それが急に具体的に動き出して、しかも来月には向こうへ行かなきゃいけなくなって……。部長としての責任もあるし、引き継ぎや準備で毎日が目まぐるしくて、本当に余裕がなかったんだ。もちろん、ユウセイに連絡しないととは思ってた。でも、どう伝えたらいいか、なんて言ったらユウセイを傷つけないか、ずっと悩んでたんだ。結局、ズルズルと時間だけが過ぎてしまって……。本当にごめん」
彼の言葉に、僕はまた涙が込み上げてきた。でも、それは先ほどの怒りや失望の涙とは少し違った。ケンさんも悩んでいたんだ。僕を傷つけないように考えてくれていたんだと、ようやく理解できたから。