その日は、期末テスト最終日の金曜日だった。テスト期間中は休みになっていた部活が再開されたが、その日は顧問の先生の都合で、練習は短時間で切り上げられた。
忘れ物があったので教室に戻ると、リョウが1人だけで残っていた。
「部活終わり? 早いね」
リョウがそう聞いてくる。
「顧問が用事で帰るとか言ってたから」
俺は机の中に残っていた忘れ物を取り出すと、カバンに詰めてすぐ帰ろうとした。
完全に2人きりになるのは修学旅行以来で、何度もリョウをネタにしてオナニーしたことを思い出し、罪悪感のようなものに襲われていた。なんとなく、この場から逃げたい気分だった。
「コウキ」
教室を出ようとしたところで、リョウが呼び止める。
「なに」
「もう帰るの?」
「ああ」
「一緒に帰っていい?」
断って傷つけたくはなかった。俺は黙って頷いた。
学校の近くには川があり、それに沿った土手がいつもの帰り道だった。地方の街にはそれほど高い建物もなく、土手に登ると景色が開けて見える。空はもう夕日色に染まりかけていた。
一緒に歩いていても、俺たちは言葉少なだった。でも、今しか聞けないことがあると思って、俺は思い切ってリョウに尋ねた。
「あのさ、あれ以来、ユウト達とはセックスしてる?」
「してない」
「ほんとに?」
「マジだよ。なんか気まずくなって誘われなくなった。あいつら今は女としか遊んでないみたい」
「そっか」
俺は何か安心したような気になっていた。
だが、もう一つ、どうしても聞きたいことがあった。
「リョウさ、あのとき、俺とやりたいって言ってたのはほんとなの」
しばらくの沈黙の後に、リョウが答える。
「うん。ほんと」
「俺に性欲感じてたんだ」
「そういう言い方をすればそうなるけどさ、ユウトやソウマに対するのとは違う気持ちからだよ」
「どういうこと」
「ユウト達にチ◯コ突っ込まれてたのは、ただあいつらの求めに応じて、一時の快楽を得たかっただけ。単なる生理的発散。おまえとしたいって思ったのは、、」
そこまで言って、リョウは不意に黙った。
少し間を置いてから、急に吹っ切れたような口調になって言った。
「ああ、もう、俺なにか隠したり抑え込んだりするの苦手だわ。俺さ、おまえのこと好きなの。だから、恋愛的な意味で抱かれたいって思ったの」
「……」
俺は何も答えなかった。
「あの修学旅行の夜のとき、おまえ俺とセックスしようとしなかっただろ。俺のこと大事にしろって言っただろ。もともとコウキは見た目がタイプだったんだけどさ、あの時から、コウキが男として気になってどうしようもなくなった」
「……」
「なあ、もしキモかったら、俺のこと突き放していいよ。俺はいま自分の気持ちを何の遠慮もなくぶつけたんだから、おまえも俺のことをどうとでも扱う権利があるよ」
「キモいとか、そんなわけねえだろ、、」
俺はそう答えるのが精一杯だった。夕日を浴びたリョウの顔は瞳が透き通っていて、切なくなるほどきれいだった。
もうすぐ土手の道が終わろうとしていた。その先の国道に出ると、家の方角が違うのでリョウと別れなければならない。
「じゃあ」
リョウが去ろうとしたところで、今度は俺が呼び止めた。
「待って、リョウ」
「ん?」
「おまえ、今日これから時間ある?」
「あるけど」
「今から俺の家来れるか」
「いいけど、なんで?」
「俺んち、今日、親いない」
リョウの瞳が、驚きで小さく開かれるのが見えた。
【続く】