「よく来るんですか?」
俺は意を決して、そう声をかけてみた。思い切ったわりには平凡な言葉だけど(笑)
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにほころんだ笑顔を見せた。
「はい、ここ、家から近いし、、お兄さんも毎日いますよね?」
「ああ、俺はアパートのガスが壊れちゃってさ、それでここに来てんだよ」
「あのアパートのガスってしょっちゅう故障するんすよ。オレの部屋も、、あ、、お兄さんってオレの隣の部屋の人ですよね?」
「そうそう、廊下でよく会うよね!」
やっぱり彼はおれを同じアパートの人として認識していたことがわかった。そこから打ち解けた感じになって、彼といろいろな話をした。
平野紫耀似の彼の名前を、仮にそのままショウとする。その年の3月に県内の工業高校を出て、この町に工場がある会社に就職したという。16か17くらいにしか見えない外見だが、やはり、ほんの数ヶ月前まで現役の高校生だったわけだ。
ちなみに中高を通じて陸上部で短距離をやっていたそうで、細いわりに引き締まった体は、それで身につけたものらしい。
やんちゃそうな見た目だと書いたが、笑うと尖った印象が消えて、本当にあどけない男の子という感じになる。そのギャップがかわいくて仕方ない。こりゃ女にモテるわけだと思いながら、おれも年甲斐もなくキュンとしてしまった。
そのまま2人で風呂を出て、一緒にアパートまで帰った。
「明日も風呂行きますか?」
アパートの前についたときに、ショウはおれにそう聞いてきた。
「行くよ。あ、でもあさってにはガス屋が来て修理が終わるから、明日が最後になるな」
「あ、最後っすか、、」
ショウはな何か落胆するような顔をした。せっかくできた銭湯仲間を失うのが惜しいのかな、と思った。
「まあ、時々は行くだろうけど、、」
「あの、明日、一緒に家族風呂に入りませんか?」
家族風呂とは、銭湯の別棟にある個室の風呂だ。なぜか、ショウの表情には懇願するような雰囲気がある。
「家族風呂? まあいいけど、、」
「よかった! 明日絶対行きましょ!」
金曜日である次の日の夜9時に行くことを約束して、その日は別れた。
顔を知っていたとは言え、さっき初めて会話したような子といきなり2人切りで風呂に行くというのも突飛なことだったが、個室であのエロい体を間近で見られるのは悪くないと、おれも下心を全開にしていた。
ところで、毎日銭湯に来てるし、ショウは若いのによっぽど風呂好きなんだなあと思った。
翌日の家族風呂のなかでの出来事で、それがとんだ見当外れであったことを知るのだが。
【続く】