カラオケに来て二時間が経とうとしている。
「叶いもしな〜〜い!この〜〜〜願い〜〜〜♪」
ショータはぶっ通しで歌いっぱなしだ。
時々、俺も曲を入れるのだが・・・
「なんだよ、拓斗。今日、全然歌わないじゃんか!」
と、何杯目であろうウーロン茶を飲み干すと俺に尋ねてきた。
「お前なー、そんなことよく言えるよな。
お前の歌ってる曲、失恋ソングばっかで歌いにくいわ!」
「えー、そうか。」
「えー、そうか。じゃねえよ!
この先の予約曲見てみろよ!!First Loveにnaoって・・・。王道まっしぐらじゃないかよww」
俺はDAMの機会を指差した。
すると、ショータは、急に今にも泣きそうな顔になって
「だって・・・だって・・・。」
俺は、こいつが泣くと厄介なのを知っているので慰める気持ちで、トーンを下げて言った。
「なんかあったんじゃないの?話、聞くし。
歌ってるばっかじゃ、気も晴れないよ」
と、声をかけると
「うっ。。う。。。、たくとぉ〜〜〜〜」
案の定、泣き出してしまった。
今夜、長くなりそうな匂いがした・・・。
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「それで・・・お前の大好きな昇先輩が、コンビ二で男と仲良くしてて、昇先輩をその男に取られたと思った。と・・・。
正直、それだけじゃあ、ただのショータの勘違いだって!心配して、損したわ。」
俺は、ジョッキ半分残ったハイボールを勢いよく飲み干した。
カラオケだとゆっくりと語れないということで、居酒屋に移動し、
女子会ならぬ男子会を始めていた。
「だって、『昇、好きだよ』オーラが出てたんだって!!
しかも、それだけじゃないって!!俺、その男に威嚇されたもん!!」
「威嚇って?」
酒の弱いショータは、梅酒のソーダ割をギュッと握り締めながら、グラスの中身を見ながら話した。
「俺が、昇さんがチーカマ食べれないんで買わないでくださいって、その男に言ったら・・・威嚇された。」
「どんな?」
「睨む・・・というか、すごい眼差しで俺を見てきたんだって!!
だから、俺もにらみ返してやったけどさ!」
「はあ。。。」
俺はため息をつくと、話し始め。
「ショータ、それはただのゲイの被害妄想だよ。
だいたいな、そんなに悩むんだったら昇先輩に告白すればいいじゃんか!
俺は、昇先輩に会ったことはないけれども、ショータの話聞く限りではスゲー面倒見のいい先輩だし、
本当のこと打ち明けても、その事実はちゃんと受け止めてくれると思うよ。
結果はどうであれ・・・。」
するとショータは、ボソッと
「無理だよ・・・。
やさしいからこそ、言えない。
きっと、昇さんのことだから受け止めてくれるけど・・・それであの人に気を使わせたくないし、そもそも、今の関係が崩れてしまうのも、嫌だ!!
だったら、ずっと片思いしていたほうが、気が楽だ・・・」
「そういうもんなのかな〜〜。
まあ、だいたいノンケに恋するってのが、辛いよな〜〜」
「ホンマに。」
俺らは、冷め切ったポテトをほお張りながら、お互い物思いにふけってしまった。
「でもまあ、好きになる相手が昇先輩でよかったな!」
「まあね。昇さん、やさしすぎなんだもんな〜〜」
と、さっきまで泣きそうになっていた奴が、照れくさそうにグラスを眺めた。
「でも、やっぱし、あのコウタって男、怪しすぎる。
絶対、昇さんのこと狙ってるに違いない!!」
「コウタ!?
その男の人、コウタっていうの?」
俺は、まさかと思いつつも、そんな偶然はないよなと思いながら聞いた。
「そうだよ、素性はよく知らないけど、院生らしいよ。
ちょっと背が高いくらいで、いい気になりやがって・・・」
まさか、そんなことはないよな。
でも、ショータと昇さんが通っている大学は確か一緒なはず。
美咲姉が通っている大学院もショータと一緒の大学・・・。
となると・・・
ショータ⇒昇さん⇒コウタさん?⇒美咲姉⇒俺
という関係で、繋がっている??
いや、まさかそんなことはないよな。
コウタなんてそこらじゅうに沢山いるしな・・・。
「なーに、ボーっとしてるんだよ」
ショータがマドラーで俺を突っついた。
「いや、ただ考え事。」
「あ、Hな事考えてただろ?」
「お前と一緒にするな(笑)」
と、二人でクスクス笑いあいながら、届いた熱燗で乾杯した。
「ところで、拓斗。明日何にもないっしょ!?」
「特に用事はないけど。」
「じゃあ、これ飲んだら、久しぶりに祇園のゲイバー行こうよ!!」
「久しぶりって、俺まだ一回しかいったことないんだけどね・・・」
「そうだっけ!?とりあえず、この話をママにも聞いてもらわなきゃ!
拓斗も、付き合ってくれるよな!?」
「はいはい、りょ〜〜かい。」
一気に飲み干すと、熱燗がのどを焼きつけた。
本当に今夜は、長くなりそうだ。