ガシャーーン
とはいかなかった。
ほんの一瞬の判断だった。
車も急ブレーキし、俺も咄嗟にチャリのハンドルを切ったのでギリギリ車に接触することはなかった。
しかし、ハンドルを切った瞬間にバランスを崩してしまい、自転車もろとも道路に倒れてしまった。
「いって〜〜〜。」
俺は腰をさすりながら、自転車を立ち上げると当たりそうになった車を見て驚愕した。
黒塗りのベンツ・・・・。
(やっちまった。)
俺は、親指一本で足りるのかな?!なんて恐ろしいことを考え始め、でも、当たってないから怒鳴られる程度だよな〜と、楽観的な妄想をしていた。
そんな妄想が頭をグルグルしていると、ベンツの運転席のドアが開いた。
俺は反射的に身構えた。
すると、俺の想像していた事とは全く違う事態となった。
「大丈夫ですか??」
俺は一瞬外国人に話しかけられたのかと思った。
だって、外見がどう見たって白人なのだ。
190cmくらいあるだろうか。綺麗な金髪をミディアムくらいまで伸ばしてあり、目鼻は本当に西洋人だ。黒のスーツがその顔立ちを際立たせている。
年は・・・正直分からない。28?くらいだろうか。
「あの、お怪我とかありませんか?」
俺は、我に返り
「だ、大丈夫です!!すいません。」
とだけ答えた。
「なら、よかった。ちょっと待ってて下さい。車を脇に移動してきます。」
「え!!でも・・あの・・・」
僕は大丈夫なんですけど・・までは続けられず、その人は車へと走って戻っていった。
俺もいつまでも横断歩道でつっ立っているわけにはいかないので、
仕方なくその人が移動した車のほうへと自転車を押した。
さっきの喋りで感じたこと。
その外国人っぽい人は、外国人にしては日本語が流暢すぎる。
もしかしてハーフなのかも。いや、でもハーフだったら日本の血が全く反映されていない気がする・・・。
でも、まあ怖い人じゃなくて良かったーー。
と考えているうちに、その人は車から出てきた。
「本当にお怪我はありませんか?」
物腰の低い、とても紳士な方だ。
「大丈夫です。こっちこそ、赤信号で飛び出してしまって、本当にすいませんでした!!」
俺は、深々とお辞儀する。
部活時代、毎日のように顧問や先輩へ謝るという特訓のおかげで、こういう時自然と対応ができるようになっていた。
「頭を上げてください。でも、心配なんで、一応病院には行ってもらえませんか??」
「いや、でも、ホントどこも打ってないんで(汗)大丈夫っす!!」
焦りながら答えた。
本当にどこも打っていないので、そこまで心配されたら逆にこっちも迷惑だ。
「でも、あんなこけ方をしていたので、どこかは打っているはずです。」
あんなこけ方って、そんな激しいこけ方したかなーと思いながら、
これは簡単に引き下がってくれなさそうだと感じ、俺は承諾することにした。
「分かりました。そこまで心配してもらったら、逆に行く義務がありますね。だいたい、僕が飛び出したのが悪かったんで。体になんにも異常がないことが分かったら、ご連絡します。」
すると、その人は顔がゆるみ
「なら、良かった!警察呼ばなかった分、私も後味が悪いんでね。」
警察も何も、俺は車に打つかってないので警察なんて呼ぶ必要はない。
続けて、その人は話した。
「じゃあ、これが私の名刺ですから。」
と渡された名刺には、なんの会社だかわからないカタカナの会社名に
【高崎 純】と書かれてあった。
日本名??俺はますます頭の中で、その顔とのギャップに悩まされた。
「一応あなたのお名前と連絡先も教えてください。」
「あ、はい。大前昇って言います。番号は・・・」
一通りの連絡が終わると、その高崎という男は
「では、連絡お待ちしております。申し訳ありませんが、この後、用事がありまして、ここで失礼します。病院に付き添えなくてすいません。」
「いえいえいえ!!付き添うなんて、大丈夫ですよ!!こちらこそ、本当にすいませんでした。」
高崎という男は、最後まで低姿勢を崩さずにベンツに乗って去って行った。
「参ったな〜〜。」
あまりにもあっという間の出来事だったので、
俺は、頭をポリポリとかきながら立ちすくしてしまった。
「ま、いっか。それより、図書館いかな!」
と、自転車に乗り、図書館へと向かった。