今日のお昼は、お揃いでマーボー丼を食べている。
孝太さんは、外見に似合わず食べ方が本当に豪快だ。これなら、俺のほうが育ちがよく見える。
そんなこと考えながら、ボーっと孝太さんを見ていると
「そういえば、昇(のぼる)君は、彼女いないの??」
「え!?僕ですか。いませんよ。もう、ずっと。。。」
「へー、モテそうなのに。作らないの?」
「作らないのって、そう簡単につくれたら苦労しませんよ(笑)」
と、いつもの通りの返しをした。
孝太さんには、嘘をつきたくないのだが・・・、まあ実際彼女がずっといないのは事実だし、いっか。
そして、正直聞きたくないのだが、この話題を聞かれたら聞き返さないといけない合言葉がある。
それは、
「孝太さんのほうこそ、彼女さんいるんですか?」
聞きたかったようで、聞きたくなかった。
返答によっては、ブルーになる可能性があるからだ。というか、その可能性は高い。
孝太さんはというと、このままの流れでサラっと答えるかと思いきや
マーボー丼をテーブルの上に置き、少し間をあけて、俺の目をしっかりと見つめながら口を開いた。
「俺は・・・」
とそこへ、
カツカツとヒールの音が俺の隣へとやってきた。
「こんなところにいた!孝太。探したんだから!!」
ふと、見上げると、この前階段で孝太さんと一緒に喋っていた彼女らしき女性が立っていた。
「みさ。なんか用?」
「なんか用じゃないわよ。最近捕まらないと思ったら、こんなところにいたのね
」
今、改めてこの「みさ」と呼ばれる女性を見てみる。
その時は、孝太さんばっか見ていたので気づかなかったが、身長は165センチくらいだろうか。ヒールも履いているので女性にしては、身長は高いほうだ。ハイウェストのベルトと、プリーツの柄物スカートが足の細さと白さを際立たせる。
顔も、可愛いというよりキレイで、ロングにカールした髪型も似合っている。
一般的に言われるキレイな人だ。俺も、この手のタイプは好きだ。
と、ボーっと「みさ」という女性を見つめていると、
あちらも視線に気づいたらしく
「あら、この前の人?」
俺は、どうもと会釈をすると、孝太さんが
「そう。大前昇くん。あれから図書館で会うようになって、親しくなったんだ。
昇君、こっちは堀川美咲。」
「どうも、大前です。この前はレジュメとか拾ってもらって、ありがとうございました。」
美咲さんは、
「こちらこそ。よろしくね。」
満面の笑みで答えてくれた。
気が強そうかと思ったが、とても礼儀正しい人っぽい。
と、
美咲さんは、その笑顔を急に真剣な顔にかえ
「それはそうと、孝太。今日の約束覚えてるんでしょうね」
孝太さんは「へ?」という顔をすると、すかさず美咲さんは
「へ?じゃないわよ。今夜、一緒に外にご飯食べに行く予定だったでしょ!?」
「あ〜〜、そうだったな。すっかり、いや、しっかり覚えていたよ(笑)」
「はぁ、全く。じゃあ、7時にロッカーで落ち合いましょ。私、これから教授に添削だから。じゃあね」
と、またカツカツと去ってしまった。
行ってしまったのを確認してから、俺は孝太さんに
「美咲さんて、キレイな方ですね。お似合いですね。」
褒めたつもりだった。
二人ともカッコいいし、きれいだし、傍から見ていて絵になる。
ところが、孝太さんは
「そうか〜〜?昇君、あーゆーのがタイプなんだ。」
脹れた子供のように言ってきた。
「いや、そーゆー意味じゃなくて(汗)ところで、今夜はどこに食べに行かれるんですか??」
俺はきまづくなって、話題を変えることにした。
「あ。決めてないや。てか、今夜は、昇君と食事できないじゃんか!!すまん!!」
「いやいや、僕の事は気にしないでください。」
【20時】
さっきは、あー言ったものの、いざ図書館から孝太さんが消えてしまうと
余計なことを考えてしまう。
どう考えたって、美咲さんは彼女だ。
てか、むしろあれで彼女じゃないって言われても、美咲さんは、孝太さんのことが好きに違いない。
孝太さんが好きな俺に、彼女らしき、同じく孝太さんが好きな美咲さん。
あー、登場人物が少なすぎる。
ドラマとかだったら、ここにもう一人くらい男がでてきて、美咲さんがそっちに惹かれて、
俺と孝太さがくっつくというあり得ないハッピーエンドが成り立つのに・・・。
そんなことを考えていたら、閉館の音楽が流れてきた。
そっか、今日の閉館は21時だった。
俺は、のそのそと帰り支度をして駐輪場に向かった。
駐輪場について、チャリに乗ろうとすると、向こうの方から見覚えのある人が走ってきた。
孝太さんだ!!
孝太さんは、前と同じようにハアハアと息を切らしながら
「間に合った!ハア。ハア。 図書館行ったら、もう出てたみたいだったからさ。」
俺は、ビックリしたように
「どうしたんですか!?」
と、目を丸くして聞いていた。
「いや、今日はもう帰ろうと思ってさ。昇君と。
てか、昇君。ワイン好きだったよね!?」
「いや、一回もそんなこと言った覚えはないんですけど(笑)
でも、白は好きですよ!」
すると、暗闇でも分かるくらいの満面の笑みで
「そっか!なら、ちょうどよかった。
この前、友達に白ワインもらってさ、一人じゃあれだから、今夜、家で飲まない?ちょうど、金曜だし。」
「いいんすか!?じゃあ、お邪魔させておらおうかな〜〜」
「よし!!決定な!じゃあ、行こう」
と、そそくさとチャリを取りに、また走って行ってしまった。
4日目にして、とうとう孝太さんの家に上がらせてもらうことになった。