鏡の前で整え終わったあと、立ち方が変わってしまう瞬間を覚えている人がいる。
胸を張るより、少し内側に身体を畳むほうが自然になる感じだ。相手が男だと分かった時点で、こちらは見られる側、責められる側に回ってしまう。
何かを言われなくても、視線の向きと距離だけで立場が決まる。女装しているぶん、逃げ道が減る感覚がはっきりする。
強い言葉も指示もなく、ただ黙って立っているだけなのに、評価されているのが分かってしまう。
昼の時間帯、豊橋の街が普通に動いている中で、こちらだけが静かに縮こまっていく。
男同士だから遠慮はなく、女装しているから誤魔化しもきかない。頭では分かっていても、身体はもう従う準備をしている。
責められる側に収まったほうが楽だと、昔の感覚が教えてくる。
理由も説明も要らない。
その状態を思い出してしまったなら、それで十分だ。
分かる人だけが、静かに立ち止まればいい。