年末も近づき仕事も忙しく残業が続いた。
ノンケとゲイが一緒に暮らして永続きするわけないと思っていたのだが、
時々軽い言い合いをしながらも結構うまく行っていた。
俺は櫻井くんに対して好きだけど、あんまりベタベタしないように気をつけた。
クリスマスを翌日に控えたイヴの夜、
俺はプレゼント代わりに、ちょっとオサレな居酒屋へ櫻井くんを誘った。
「なんでこんな店知ってんだ?」
「前、一度きたから、」
「誰と?」
「忘れた、ところでイヴだけど誰からの誘いもなかったの?」
「いやぁ〜モテ男はつらいな〜、一杯誘いがあったんだけど全部断ってきた。笑
いつもヒロトと一緒にいるけど今日は特別だもんな。
それに誘ってくれたし、あっ、これ、いつもお世話になってるヒロト様にプレゼント!」
そう言って鞄から紙袋をだして俺にくれた。
「マジ?俺に?、ありがとう!でもそんなに誘いが一杯あるならそっちへ行けば?
無理に付き合ってくれなくてもいいよ」
「なに、怒ってんだよ、ヒロトが一人じゃ寂しいと思ってさ、」
「別に、」
「あぁ〜そういう強がり言っちゃって!可愛くねー」
「別に、強がってねーし、それに可愛くなくても誰にも迷惑かけてねーしw」
「何、ムキになってんだよ、」櫻井くんが笑いだした。
「あぁ〜そうやって俺のことからかって喜んでる、嫌な奴じゃw」
「別にからかってなんかないよ、機嫌直せよ、ヒ・ロ・ト・」
「うぅ、、直さない、絶対!」
俺から誘ったのに「帰る」そう言って勝手に店をでた。
「待てよ、ヒロト」櫻井くんが追いかけて来た。
無言のまま電車に乗る。俺はてっきり一緒に部屋に来るもんだと思ったが、
「今日は、このまま帰る」そう言って降りなかった。
改札をでて部屋に向かう途中、櫻井くんはダチの誘いを断って付き合ってくれたのに
「キツイこと言ってしまったな、怒ってんだろーな、」と考えると気が重い。
部屋に着いてからも、隣に櫻井くんがいない事が不思議に感じられた。
それだけ俺の心に入り込んでしまったんだろーか?
独りぼっちで、櫻井くんを酷い言葉で傷つけてしまったことを反省した。
テレビを見ても楽しいクリスマスの話題ばっかり。
知り合って初めて迎えるクリスマス。楽しみにしていたのに最悪の結果だ。
俺が悪いんだから仕方がない。でも櫻井くんの事が気になってしょうがない。
シャワーを浴びようと思い服を脱ぎかけるとチャイムが鳴った。
えぇーこんな時間に誰だよ、と思いインターホンをとると
「ヒロト、俺」という声。それは間違いなく櫻井くんの声。
ドアを開けると、そこにはライダー用のフル装備をした櫻井くんが立っていた。
「どーしたんだよ、そんな恰好で?」「いいから、これ着ろ」
そう言って背負っていたリュックから、防寒用の皮のパンツとジャンパーをだした。
こんなもん渡されても、俺はなにがなんだかサッパリ分らなかった。
俺は謝ることも忘れてしまった。
「こんな夜、何処へ行くんだよ?それに寒いし、」そう聞いてもニヤニヤしてる。
「なぁ、何処へ行くのか教えてくれてもいいだろ?」
「散歩だよ」そう言ってまたニヤっとした。
ナナハンの後ろに乗って、櫻井くんの腰に両手をまわす。
「ヒロト、寒くないか?大丈夫か?」バイクの音に交じって櫻井くんの声が聴こえる。
ちょっと寒かったが俺は「平気」そう言って、前よりも櫻井くんの背中にピタリとくっついた。
「あぁ〜そんなにくっ付かなくても、」
でも俺は聴こえない振りををして、もっと強く腰に手をまわしくっ付く。
イヴの街は、いつもより車が少ないように感じた。何処へ行くんだろう?